【レビュー】ファースト・プライオリティー(山本文緒)
職場の同僚から、「山本文緒って、すいすい読める?」と聞かれました。
彼女は図書館内の展示コーナー担当で、直木賞作家の展示のために資料の読みこみをしています。
「展示で山本文緒もやるの? わ~私大好きだよ~」と冴水が騒いでたため、声をかけてきたようです。
宮本輝が好きで、きっぷの良い性格の彼女は、「とりあえず『プラナリア
』と『恋愛中毒
』を読み始めたんだけど、どうも進まなくて…」と歯切れの悪い様子。
「あ~、『プラナリア』から行ったんだ…。ちょっとクセがあるからね~。『恋愛中毒』もいいけど、ドラマ化された『ブルーもしくはブルー
』とか『群青の夜の羽毛布
』のが読みやすいかも」
と言いつつ、直木賞受賞作を展示しないわけにはいかないし、と私まで口ごもる始末…(汗)
正直、山本文緒が人を選ぶ作家だとは、今まで気づいてませんでした。
たしかに男性読者なら無理もないけど、20~30代の女性ならば登場人物も舞台も「どこかで見たような」と既視感を覚えるくらい身近だと思ってました…(爆)
「これは自分のことだ…!」と思う読者もいっぱいいるんだろうなぁ、と。
そんなごくあたりまえな物語なのに、出てくる言葉や場面のリアリティと、さりげなく潜む毒にドキっとさせられ、物語の終着地点がまったく予想できないまま、どんどん引き込まれていく。
そのアクロバティックなまでのストーリーテーリングが、彼女の魅力だと思うのですが…。
う~ん、展示するのに難しい…というのはあるのかも、ねぇ。
さて前フリが長くなりましたが、サイトリニューアルで明け暮れたこの正月、唯一読んでいたのが山本文緒の『ファースト・プライオリティー』です。
本屋さんのカウンターなどで配っている出版社の新刊情報誌、「波」(新潮社)とか「本の窓」(小学館)とか「青春と読書」(集英社)とか「図書」(岩波書店)などを見たことがあると思いますが、幻冬社の「星星峡」に連載されていたものだとか。
全31編の短編集ですが、1編は単行本約9ページという短さ。ショートショートと言った方が正確です。
この短さのおかげで、PCのスイッチを入れてから起動するまでの隙間に、読んでる時間が取れました(笑)
世の本好きさんには「短いと読んだ気がしない」という方も多く、文壇でも「ショートショートは小説扱いされない」と、SFショートショートの天才・星新一も苦労したそうですが、はっきり言ってそれはもったいない。
長編が積み重ねられたディテールや伏線が織りなす物語のおもしろさなら、短編は冗長が許されず計算され研ぎ澄まされた文章と視点のおもしろさ。
さらにそれぞれの短編が重なり合うことで、ひとつの明確なたたずまいを見せるのがよい短編集というものかと思います。
(もちろんそれには作家の構成力と、よい編集さんが不可欠でしょうが/汗)
----------------- ここから先、ネタバレ ----------------
山本文緒は長編もおもしろい作家ですが、この本の切れ味ときたら「短い方が冴えるのでは…」と思えるほど。
「31歳、31通りの人生の最優先とは…?」というテーマ設定が、また絶妙です。
「よくある話じゃん。恋愛とか、仕事とか?」なんて程度では甘いんです(笑)
たとえば恋愛なら、「どんな関係の誰をどういう経緯で好きになったか」、その裏には人それぞれの環境やらコンプレックスやら性格やらがあって、恋愛に溺れる人間の最優先が恋愛とは限らない。
同じように、ついやってしまうクセやちょっとした選択や苦手なことや悩みなんかの裏に、その人の自覚あるなし問わずのこだわりが透けて見えるのです。
そこが人間観察の鋭さにかけてはピカイチの山本文緒ならでは、のテーマじゃないかな~と思えます。
31編すべての短編がどれも似ていなくて、登場人物の立場も好みも人生もバラバラ。
それでいて、それぞれが作者本人のことじゃないのかと思うくらいにリアルです。
嗜好や中毒や生活習慣には、密接にその人の環境が関わっていて、なにに対してどの程度は許せるかも、本当に人それぞれなんですね。
一般常識、という言葉でくくれない人々の多様さ、それがこの本にはある。
誰でも一緒に見えるというのは、きっと勘違いなんでしょう。
さらに、登場人物たちの最優先に対する複雑な気持ちの綾が、感情のさざなみの描き方が秀逸なんです。
最優先を守り、かつ疑い、振り回され、それだけで生きることもできず、それがなくては生きられない人々のリアルな空気感…。
それなりに人生経験を積んでなお悩み多き「31歳」という年齢設定も、理由あってのことかと思います。
まぁ、山本文緒が離婚したのが31歳だったから、というのも大きいみたいですけど。
それぞれの短編の出来はそれぞれ違いますけど、私の好きなのは次のあたり。
「車」
こんな生活しちゃう人、いるのかな~とも思うけど、案外いるかもしれない。
車好きって、意外と男性だけでもないですしね。
自分だけの空間でありながら、どこへでも行ける、自由な感じの良さっていうのも、なんかわかるしなぁ。
先輩との微妙な距離感がまた秀逸です。
「嗜好品」
人間関係も嗜好品なのね…。ああ、なんか納得いくかも。
「好き」の温度もタイプもジャンルも違いますので、複数存在しても不思議はないのです。
「旅」
一人旅好きの人って、けっこういますよね~。
うんうん、と読んでいたら、ラストこうくるか~!
ああ、ホント人生って悩み多いもんですよねぇ…(涙)
「バンド」
自分の好きなことを仕事にしている人は、私の周りにもいます。
お金になってもならなくても、商業主義の中でのジレンマも、先行きの不安も、好きだからこそ人一倍ですよね。
ずっと同じ世界に長くいると、なにが大事だったのかわからなくなったりもする、よなぁ…。
「庭」
…この作者って本当はいったいいくつなんでしょう…と、思わされる作品。
なんか、身近にいるからこそ家族って遠い存在だったりもするんですよね。
ラストのセリフに、感動してちょっと涙ぐみました。
「燗」
どっちが悪いわけじゃないけど、嗜好と許容範囲がハマらない人間同士は一緒に暮らせないんだなぁ…。
でもって、この嗜好も許容範囲もどんどん変わるのがくせものなんですよね。
「ボランティア」
夫婦の間って、寄りかかりすぎても重いし、遠慮も配慮もなくては続かないし、日常のつながりだけでもとりあえずは日を重ねられるけど、明確な役割分担に安心して、相手が見えなくなってしまうのかな?
『泣いたり落ち込んだりする自由』というのは、目が覚めるような表現です。
そばに誰かがいれば孤独じゃないわけでないんですね。
「小説」
31歳で離婚した当時の山本文緒の自伝的な短編。
本人が苦しみながら泣きながら獲得した心境だからか、ベストセラー作家の仲間入りをした今を知ってるからこそか、とても共感しました。
人生って不安だらけで苦しくて大変だけど、悪いことばかりじゃないよね。
この本、実は直木賞受賞後第一作だったらしいです。
誰が決めたか知りませんけど、一般的に作品として1ランク下に見られるショートショート集で、それでいて山本文緒という作家の筆力と個性を思う存分堪能できる一冊を持ってくるなんて…。
なんつー野心的な戦略なんでしょ~(笑)
彼女は図書館内の展示コーナー担当で、直木賞作家の展示のために資料の読みこみをしています。
「展示で山本文緒もやるの? わ~私大好きだよ~」と冴水が騒いでたため、声をかけてきたようです。
宮本輝が好きで、きっぷの良い性格の彼女は、「とりあえず『プラナリア
「あ~、『プラナリア』から行ったんだ…。ちょっとクセがあるからね~。『恋愛中毒』もいいけど、ドラマ化された『ブルーもしくはブルー
と言いつつ、直木賞受賞作を展示しないわけにはいかないし、と私まで口ごもる始末…(汗)
正直、山本文緒が人を選ぶ作家だとは、今まで気づいてませんでした。
たしかに男性読者なら無理もないけど、20~30代の女性ならば登場人物も舞台も「どこかで見たような」と既視感を覚えるくらい身近だと思ってました…(爆)
「これは自分のことだ…!」と思う読者もいっぱいいるんだろうなぁ、と。
そんなごくあたりまえな物語なのに、出てくる言葉や場面のリアリティと、さりげなく潜む毒にドキっとさせられ、物語の終着地点がまったく予想できないまま、どんどん引き込まれていく。
そのアクロバティックなまでのストーリーテーリングが、彼女の魅力だと思うのですが…。
う~ん、展示するのに難しい…というのはあるのかも、ねぇ。
さて前フリが長くなりましたが、サイトリニューアルで明け暮れたこの正月、唯一読んでいたのが山本文緒の『ファースト・プライオリティー』です。
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本屋さんのカウンターなどで配っている出版社の新刊情報誌、「波」(新潮社)とか「本の窓」(小学館)とか「青春と読書」(集英社)とか「図書」(岩波書店)などを見たことがあると思いますが、幻冬社の「星星峡」に連載されていたものだとか。
全31編の短編集ですが、1編は単行本約9ページという短さ。ショートショートと言った方が正確です。
この短さのおかげで、PCのスイッチを入れてから起動するまでの隙間に、読んでる時間が取れました(笑)
世の本好きさんには「短いと読んだ気がしない」という方も多く、文壇でも「ショートショートは小説扱いされない」と、SFショートショートの天才・星新一も苦労したそうですが、はっきり言ってそれはもったいない。
長編が積み重ねられたディテールや伏線が織りなす物語のおもしろさなら、短編は冗長が許されず計算され研ぎ澄まされた文章と視点のおもしろさ。
さらにそれぞれの短編が重なり合うことで、ひとつの明確なたたずまいを見せるのがよい短編集というものかと思います。
(もちろんそれには作家の構成力と、よい編集さんが不可欠でしょうが/汗)
----------------- ここから先、ネタバレ ----------------
山本文緒は長編もおもしろい作家ですが、この本の切れ味ときたら「短い方が冴えるのでは…」と思えるほど。
「31歳、31通りの人生の最優先とは…?」というテーマ設定が、また絶妙です。
「よくある話じゃん。恋愛とか、仕事とか?」なんて程度では甘いんです(笑)
たとえば恋愛なら、「どんな関係の誰をどういう経緯で好きになったか」、その裏には人それぞれの環境やらコンプレックスやら性格やらがあって、恋愛に溺れる人間の最優先が恋愛とは限らない。
同じように、ついやってしまうクセやちょっとした選択や苦手なことや悩みなんかの裏に、その人の自覚あるなし問わずのこだわりが透けて見えるのです。
そこが人間観察の鋭さにかけてはピカイチの山本文緒ならでは、のテーマじゃないかな~と思えます。
31編すべての短編がどれも似ていなくて、登場人物の立場も好みも人生もバラバラ。
それでいて、それぞれが作者本人のことじゃないのかと思うくらいにリアルです。
嗜好や中毒や生活習慣には、密接にその人の環境が関わっていて、なにに対してどの程度は許せるかも、本当に人それぞれなんですね。
一般常識、という言葉でくくれない人々の多様さ、それがこの本にはある。
誰でも一緒に見えるというのは、きっと勘違いなんでしょう。
さらに、登場人物たちの最優先に対する複雑な気持ちの綾が、感情のさざなみの描き方が秀逸なんです。
最優先を守り、かつ疑い、振り回され、それだけで生きることもできず、それがなくては生きられない人々のリアルな空気感…。
それなりに人生経験を積んでなお悩み多き「31歳」という年齢設定も、理由あってのことかと思います。
まぁ、山本文緒が離婚したのが31歳だったから、というのも大きいみたいですけど。
それぞれの短編の出来はそれぞれ違いますけど、私の好きなのは次のあたり。
「車」
こんな生活しちゃう人、いるのかな~とも思うけど、案外いるかもしれない。
車好きって、意外と男性だけでもないですしね。
自分だけの空間でありながら、どこへでも行ける、自由な感じの良さっていうのも、なんかわかるしなぁ。
先輩との微妙な距離感がまた秀逸です。
「嗜好品」
人間関係も嗜好品なのね…。ああ、なんか納得いくかも。
「好き」の温度もタイプもジャンルも違いますので、複数存在しても不思議はないのです。
「旅」
一人旅好きの人って、けっこういますよね~。
うんうん、と読んでいたら、ラストこうくるか~!
ああ、ホント人生って悩み多いもんですよねぇ…(涙)
「バンド」
自分の好きなことを仕事にしている人は、私の周りにもいます。
お金になってもならなくても、商業主義の中でのジレンマも、先行きの不安も、好きだからこそ人一倍ですよね。
ずっと同じ世界に長くいると、なにが大事だったのかわからなくなったりもする、よなぁ…。
「庭」
…この作者って本当はいったいいくつなんでしょう…と、思わされる作品。
なんか、身近にいるからこそ家族って遠い存在だったりもするんですよね。
ラストのセリフに、感動してちょっと涙ぐみました。
「燗」
どっちが悪いわけじゃないけど、嗜好と許容範囲がハマらない人間同士は一緒に暮らせないんだなぁ…。
でもって、この嗜好も許容範囲もどんどん変わるのがくせものなんですよね。
「ボランティア」
夫婦の間って、寄りかかりすぎても重いし、遠慮も配慮もなくては続かないし、日常のつながりだけでもとりあえずは日を重ねられるけど、明確な役割分担に安心して、相手が見えなくなってしまうのかな?
『泣いたり落ち込んだりする自由』というのは、目が覚めるような表現です。
そばに誰かがいれば孤独じゃないわけでないんですね。
「小説」
31歳で離婚した当時の山本文緒の自伝的な短編。
本人が苦しみながら泣きながら獲得した心境だからか、ベストセラー作家の仲間入りをした今を知ってるからこそか、とても共感しました。
人生って不安だらけで苦しくて大変だけど、悪いことばかりじゃないよね。
この本、実は直木賞受賞後第一作だったらしいです。
誰が決めたか知りませんけど、一般的に作品として1ランク下に見られるショートショート集で、それでいて山本文緒という作家の筆力と個性を思う存分堪能できる一冊を持ってくるなんて…。
なんつー野心的な戦略なんでしょ~(笑)


この記事へのコメント
山本文緒ってちょっとしか読んだことないのだ。
それにしてもあきちゃんのレビューいいわぁ。
わかりやすいし、すごく興味をそそられる。
私にはレビューなんて書けません。
ささーっと読んですぐ忘れちゃうし、どっか神経死んでるのかたいした感想も抱かないし、なんかちょっと思ってもそれをうまく言葉で表現できませんもの。
あらすじでさえ語れない。
これからあきちゃんに本紹介してもらおー。
アナタの方がよっぽど本読みさんじゃないの~!
でも楽しんでもらえたならうれしいです。